わたくしどもは。

映画「わたくしどもは。」

INTRODUCTIONイントロダクション

古からの生の痕跡と記憶が潜む島
現世と来世の狭間 彷徨う魂たち

ベネチア国際映画祭が新鋭監督を支援するプロジェクトBiennale College Cinema 2018-2019インターナショナル部門9作品のうち日本から唯一選出され、第36回東京国際映画祭コンペティション部門にも正式出品された本作。佐渡島に眠る“無宿人”の墓からインスピレーションを得て、オリジナル脚本で監督を務めたのは⻑編監督第二作目となる富名哲也。ようやく日本で富名の幻想奇譚の作風が世に出ることとなる。
ダブル主演の小松菜奈・松田龍平は佐渡島の金山跡地を舞台に、不思議な神秘の世界へと導く。さらに大竹しのぶ、石橋静河、田中泯、内田也哉子、歌舞伎界ホープの片岡千之助、ダンサー・演出家の森山開次、そして能楽師の辰⺒満次郎といった珠玉の表現者たちが集結。劇中音楽は、日本を代表するバンドRADWIMPSのフロントマンとして活躍する野田洋次郎が手掛け、“彷徨える魂”の物語を紡いでいる。

STORYあらすじ

「生まれ変わったら、
今度こそ、一緒になろうね」

名前も、過去も覚えていない女(小松菜奈)の目が覚める。舞台は佐渡島。鉱山で清掃の仕事をするキイ(大竹しのぶ)は施設内で倒れている彼女を発見し、家へ連れて帰る。女は、キイと暮らす少女たちにミドリと名付けられる。キイは館⻑(田中泯)の許可を貰い、ミドリも清掃の職を得る。
ミドリは猫の気配に導かれ、構内で暮らす男、アオ(松田龍平)と出会う。彼もまた、過去の記憶がないという。言葉を重ねるうちに、ふたりは何かに導かれるように、寺の山門で待ち合わせては時を過ごすようになる。そんなある日、アオとの親密さを漂わせるムラサキ(石橋静河)と遭遇し、ミドリは心乱される。

CASTキャスト

  • ミドリ

    小松菜奈 (Nana Komatsu)

    1996年生まれ、東京都出身。長編映画初出演を果たした映画『渇き。』(14)で、第38回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか多数の新人賞を受賞。映画『沈黙-サイレンス-』(16)でハリウッドデビュー。映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』(19)では第43回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『糸』(20)で第44回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。主な出演作に映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、『さよならくちびる』(19)、『さくら』(20)、『ムーンライト・シャドウ』(21)、『余命10年』(22)などがある。

  • アオ

    松田龍平 (Ryuhei Matsuda)

    1983年生まれ、東京都出身。『御法度』(99)で数々の新人賞を総なめし、その後、主演作『青い春』(02)での圧倒的な存在感で注目を浴びる。『舟を編む』(13)で第37回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、第38回報知映画賞主演男優賞、第68回毎日映画コンクール男優主演賞、第23回日本映画批評家大賞主演男優賞他、多くの賞を受賞。主な映画出演作に『劔岳点の記』(09)、『まほろ駅前多田便利軒』シリーズ(11・13・14)、『北のカナリアたち』(12)、『探偵はBARにいる』シリーズ(11・13・17)、『ジヌよさらば~かむろば村へ~』(15)、『モヒカン故郷に帰る』『ぼくのおじさん』(16)、『散歩する侵略者』(17)、『羊の木』『泣き虫しょったんの奇跡』(18)など。待機作に、映画『次元を超えるTRANSCENDING DIMENSIONS』(24年公開予定)などがある。

  • 向田透

    片岡千之助 (Sennosuke Kataoka)

    2000年生まれ、東京都出身。2003年7月、大阪松竹座「男女道成寺」の所化で初お目見え。2004年歌舞伎座にて4歳で初舞台を踏み、2011年、仁左衛門と戦後初の祖父、孫での「連獅子」を実現させる。2012年、12歳から自主公演「千之会」を主催するなど芸事への研鑽を積みながら、2017年にはペニンシュラ・パリにて歌舞伎舞踊を披露、また世界的写真家マリオテスティーノの被写体に抜擢され、2020年「カルティエ」腕時計パシャのアチバー(達成者)に選ばれるなど、国内外、様々な分野で活躍中。2023年9月、初主演映画『メンドウな人々』が劇場公開。2024年1月公開の藤沢周平原作、時代劇「はしものがたり『約束』」では主演を務めた。

  • ムラサキ

    石橋静河 (Shizuka Ishibashi)

    1994年生まれ、東京都出身。バレエ留学を経て、2015年、俳優として活動を始める。17年、初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で第60回ブルーリボン賞新人賞ほか映画新人賞を多数受賞。以降、映画『きみの鳥はうたえる』(18)、『二階堂家物語』(19)、『人数の町』(20)、『あのこは貴族』(21)、ドラマ「東京ラブストーリー」(20)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、舞台「エヴァンゲリオン・ビヨンド」(23)などに出演。24年はNHKドラマ10「燕は戻ってこない」、テレビ朝日系SPドラマ「ブラック・ジャック」など話題作への出演を控えている。

  • 向田透の母

    内田也哉子 (Yayako Uchida)

    1976年生まれ、東京都出身。エッセイ執筆を中心に、翻訳、作詞、音楽ユニットsighboat、ナレーションなど、言葉と音の世界に携わる。三児の母。著書に「BLANK PAGE 空っぽを満たす旅」(文藝春秋)、絵本の翻訳作品に「たいせつなこと」(フレーベル館)などがある。2007年、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞新人賞を受賞。その他の映画出演作に『東京日和』(97)、『わが母の記』(12)、『流浪の月』(22)などがある。富名監督作品では『ブルー・ウインド・ブローズ』(18)に続き、本作が2作目の参加となる。

  • 爛れた男

    森山開次 (Kaiji Moriyama)

    1973年生まれ、神奈川県出身。21歳よりダンスを始め、2005年、自身の演出・振付によるソロ作品「KATANA」でニューヨークタイムズ誌に「驚異のダンサーによる驚くべきダンス」と評される。2007年、ヴェネツィア・ビエンナーレに招聘。2012年発表の「曼荼羅の宇宙」で芸術選奨文部科学大臣新人賞ほか受賞。2021年東京2020パラリンピック開会式演出・チーフ振付。近作に舞台「千と千尋の神隠し」カオナシ役など、演出家、ダンサーの両面で多岐にわたり活動。富名監督作品では『ブルー・ウインド・ブローズ』(18)に続き、本作が2作目の参加となる。

  • 能楽師

    辰巳満次郎 (Manjiro Tatsumi)

    2001年、重要無形文化財総合指定保持者となる。2005年、大阪文化祭賞奨励賞受賞。東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業。ニューヨーク国連前広場、メトロポリタン美術館ホールなどの海外公演のほかに、エルサレム嘆きの壁ロビンソンアーチ前、エジプトスフィンクス前、バチカン、伊勢神宮、橿原神宮、出雲大神宮、宮崎神宮、上賀茂神社など国内外多数の聖地での平和祈念奉納を行う。代々の能楽師の家に生まれ、古典を重んじ定期能楽公演を主宰する一方、伝統的な手法による新作活動にも参画し、新作能「マクベス」「オセロ」「神武」「六条」「覇王」「王昭君」「道頓」「散尊(サムソン)」「光明」の演出・主演をする。また、他ジャンルの日本の古典楽器のほか、西洋楽器(古楽器から電子音楽まで)と融合する舞台も創り上げる。公益社団法人宝生会理事。一般社団法人日本芸術文化戦略機構名誉理事長。

  • 館長

    田中泯 (Min Tanaka)

    1945年生まれ、東京都出身。66年よりクラシックバレエとモダンダンスを10年間学び、74年独自の活動を開始。「ハイパーダンス」と称した新たなスタイルを発展。78年ルーブル美術館において海外デビュー。80年代、旧共産圏で前衛パフォーマンスを多数決行。国際的に高い評価を獲得。85年山村へ移り住み、農業を礎とした舞踊活動を現在も継続中。02年に映画初出演、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞と新人俳優賞を受賞。以後映像界でも国内外で活動中。22年に、田中泯の本格的な長編ドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』(犬童一心監督)が公開された。23年に『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース監督)出演。

  • キイ

    大竹しのぶ (Shinobu Otake)

    1957年生まれ、東京都出身。1974年「ボクは女学生」の一般公募でドラマ出演。そして、1975年 映画『青春の門 -筑豊編-』ヒロイン役で本格的デビュー。その鮮烈さは天性の演技力と称賛され、同年、朝の連続ドラマ小説「水色の時」に出演し、国民的ヒロインとなる。以降、気鋭の舞台演出家、映画監督の作品には欠かせない女優として圧倒的な存在感は常に注目を集め、映画、舞台、TVドラマ、音楽等ジャンルにとらわれず才能を発揮し、話題作に相次いで出演。作品毎に未知を楽しむ豊かな表現力は、主要な演劇賞を数々受賞して評価されると共に、世代を超えて支持され続けている名実ともに日本を代表する女優。

  • 音楽

    野田洋次郎 (Yojiro Noda)

    ロックバンドRADWIMPSのボーカル、ギター、ピアノとしてほぼ全ての楽曲の作詞作曲を手掛ける。ジャンルという既存の枠組みに捉われない音楽性、恋愛から死生観までを哲学的に、情緒的に描いた歌詞で、思春期を過ごす世代を中心に大きな支持を受けている。アニメーション映画『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』の音楽全般を担当し、それぞれ日本アカデミー賞最優秀音楽賞を授賞。また、他アーティストへの楽曲提供や俳優として映画やドラマの主演を務めるなど多彩な活動を行なっている。

STAFFスタッフ

  • 監督

    富名哲也 (Tetsuya Tomina)

    北海道釧路出身。英国ロンドン・フィルム・スクールで映画を学ぶ。2013年、短編『終点、お化け煙突まえ。』(岸井ゆきの主演)は、第18回釜山国際映画祭の短編コンペティション部門に選出。2015年、企画「ブルー・ウインド・ブローズ」が釜山国際映画祭のASIAN CINEMA FUNDにて助成金を獲得。2018年、長編初監督作品『ブルー・ウインド・ブローズ』は第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション・コンペティション部門とBerlinale Goes Kiezに選出。ウクライナの映画祭で撮影賞、バングラデシュでは作品賞を受賞。長編企画「わたくしどもは。」は、ベネチア国際映画祭が実施する新鋭監督を支援するプロジェクト、Biennale College Cinemaに選出される。同企画は、TIFFCOM TOKYO-GAP FINANCING MARKET、Hong Kong-Asia Film Financing Forumなどの企画マーケットにも選出。長編第二作『わたくしどもは。』は、香港国際映画祭INDUSTRY傘下のHKIFF COLLECTIONとワールドセールス契約を結ぶ。2023年10月、同作は第36回東京国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミアを迎えた。

    フィルモグラフィー
    2013年制作 短編『終点、お化け煙突まえ。』
    2018年制作 長編第一作『ブルー・ウインド・ブローズ』
    2023年制作 長編第二作『わたくしどもは。』

  • プロデューサー

    畠中美奈 (Mina Hatanaka)

    鹿児島出身。大学卒業後、(株)久米設計の設計室に勤務。その後、プロレス団体UWFインターナショナルの広報・企画部長を務める。安藤忠雄設計の大手前アートセンターにて黒田アキ展をプロデュース。長野パラリンピック冬季競技大会閉会式の制作チーフ。大手前ビジネス学院専門学校講師や放送大学設計学レギュラー出演。写真展「管野秀夫 Dearest Musicians」(池袋パルコ)、「hide写真集」、「hide~DIVE to 2000~写真展」などの制作に携わる。俳優のマネージメントなどを経て、2013年から夫で監督の富名哲也とTETSUYA to MINA film(テツヤトミナフィルム)を始める。以降、富名監督全作品『終点、お化け煙突まえ。』 (13)、『ブルー・ウインド・ブローズ』(18)、『わたくしどもは。』(23)の企画・プロデュース・キャスティングを担う。企画「ブルー・ウインド・ブローズ」では釜山国際映画祭のAsian Project Market、企画「わたくしどもは。」ではBiennale College Cinema、TIFFCOM TOKYO-GAP FINANCING MARKET、Hong Kong-Asia Film Financing Forumなどの映画祭企画マーケットに参加する。

INTERVIEW富名哲也監督・畠中美奈プロデューサー インタビュー

―『わたくしどもは。』の世界観を作るまでの経緯を教えてください。

富名「私とプロデューサーで妻の畠中は、2017年に初長編作『ブルー・ウインド・ブローズ』を新潟県佐渡島で撮影しました。佐渡金山はその撮影後に初めて訪れたのですが、傍にひっそり佇む無宿人の墓から無宿人という存在を知り、この映画がスタートした気がします。何かしらの理由で戸籍を奪われた無宿人たちは、江戸時代に内地から佐渡に連れてこられ鉱山での過酷な労働の中、その多くは数年で亡くなってしまったそうです。直接的に彼等のことを描かないにしても、インスピレーションはそこで湧いたのです」

― 映画の冒頭、ミドリ(小松菜奈)とアオ(松田龍平)の心中を匂わすエピソードが登場するのも、歴史からの引用ですか?

富名「相川地区に伝わる相川音頭は、幕末の天保の改革で禁じられるまでは、心中口説き節だったことは知られています。近松門左衛門の人形浄瑠璃「心中天の網島」などが大阪で上演されて、関西で男女心中が流行り、それから佐渡でも心中事件が流行ったといいます。当時、心中は重罪でした。為政者としては後追いを断つために、ときには心中した者を野ざらしにして墓を作らせなかったりしたそうです。そういった背景が何かしら物語に影響したのではと思います。主人公の二人は何らかの理由で現世では結ばれることが出来なかったという設定で、その後、登場するムラサキ(石橋静河)はアオのかつてのパートナーという人物設定にしています。佐渡の歴史的背景の影響もありますが、何よりこの映画のストーリーに関係しているのは、私たち夫婦のことなのかもしれません。私と畠中は、プライベートでも仕事でもいつも時間を共にしています。ロケハンの移動中などで、死んだらまた一緒になるのか、死ぬなら一緒のタイミングが良いなど、たわいも無い会話をよくすることがあって、そのことが何よりダイレクトな影響を与えているのだと思います」

― 金山の施設内でミドリは目覚めますが、彼女を助けるキイ(大竹しのぶ)ほか、館長(田中泯)のいる当地の世界観はどういう設定になっているのでしょうか?

富名「過去の記憶が無い人たち、名前の無い人たちに関しては、死んでから成仏するまでの49日間の時間軸に漂っている人としています。その意味で、本作の主題は“生まれ変わり”。映画に度々登場する佐渡金山の頂上がV字に削られた〈道遊の割戸〉をあの世とこの世を結ぶ通り道として見立てています。その期間を過ぎても留まり彷徨っている魂たちもいます。
ただ、私の方で定めた設定はありますが、観客の方に自由に解釈してもらえればと思っています。というのも、小松さんにも、松田さんにも細かな設定をお伝えしていません。物語のキャラクターを演じてもらうというより、ふたりがただそこにいるという存在を映像に刻印したいというのがありました。そのことは撮影前におふたりにはお伝えしました」

― ミドリ、アオ、キイといった名前は前作にもありましたが、本作での片岡千之助さんが演じる向田透と、その母(内田也哉子)にはいわゆる普通の名前があります。どういう違いがあるのでしょうか?

富名「向田透とその母は実際に生きている人で、透はろう者の母を持つコーダなので手話が使えます。登下校で、透を虐めている他校の学生たちはろう者になります。アオには透が見えていますが、透にはアオは見えていません。ちなみに、色の無い透と名付けたのも彼が生きているゆえです」

― 富名監督が2013年に発表した短編『終点、お化け煙突まえ。』は岸井ゆきのさん演じる女子高生が、卒業式からの帰宅中のバスであの世へとアクセスする話でしたし、『ブルー・ウインド・ブローズ』でもアオという少年とバケモノとの邂逅を題材としていました。死者と生者が継ぎ目なく交わる世界観は富名作品の特色だと思いますが、発想はどこからきていますか?

富名「父親が2歳の時に亡くなっていたことが大きいかと思います。物心がつく前から、母親がいつも仏壇に手を合わせていて、私も母の見様見真似で仏壇に何かの折によく手を合わせていました。肉体としてはいないけれど、意識のなかで父はすぐ側にいると感じて過ごしてきたので、見えないものに対する距離感が自分の作る物語の特色になっていると思います。何かを狙って作っているというより、自然とそういう話になってしまっているという。畠中からは、次は違うタイプの話にしてみないかと言われているのですが(笑)」

― 劇中、ミドリの台詞回しが独特です。狙いを教えて下さい。

富名「小松さんの過去の作品を見たときに感じた魅力は、彼女の持つ自分らしさや現代性でした。ですが、本作においては、小松さんの持つナチュラルさや現実感を逆に抑制したいと考えました。そこで、「わたし」ではなく、「わたくし」とあえて丁寧な言葉をミドリに使わせ、枷を課すことにしました。小松さんも、撮影に入る直前に変更したのでとても困惑され、この言い回しは不自然ではないでしょうかと事前の相談もあったのですが、ミドリは記憶のない設定にしているので、現実の生活の匂いを出さなくて良いからと、あえてその不自然さを受け入れてもらった次第です。あえて動きを封じる演出をしています。肉体はそこにあるけれど、それは器に過ぎず、どこか空っぽであるという姿が欲しかったので、凄くやりづらかった部分も沢山あったのではないかと思います。本作は私たち夫婦がインディペンデントで製作した映画なのですが、予算的制限がある中で出来る限りのチャレンジはしたつもりでいます。
一方、爛れた男役の森山開次さんの動きは、脚本に書いた『足を引き摺って』という以外の注文はつけておらず、そこからご自身の考えであのような動きになっています。また、向田透役の片岡千之助さんも『赤襦袢で踊る』の一文から、ご自身であの踊りを組み立てられています」

― 映像美が際立つ構成ですが、画面サイズの意図と、登場人物の横顔のフォーカスを多用した理由を教えて下さい。

富名「見せすぎない、必要のない情報を入れないようにスタンダードサイズにしたというのが根本にあります。また、登場人物が小さな世界に閉じ込められているという感じを出したいという狙いもありました。登場人物の表情のフォーカスが多いのは、スタンダードということも関係しているかもしれませんが、撮影しているときにはあまり意識していませんでした。おそらく、今回出ていただいた俳優の顔から滲み出てくるパワーに引き寄せられたのかと。小松さんにしろ、松田さんにしろ、自ずとカメラが寄っていきました」

― 次回作の構想は?

富名「コロナ禍で東京から新潟市に移住しました。次は島を一旦離れ、新潟県の本土側で、土地の風土を取り込んだ物語を書いています。実現に向けて動き始めようと畠中と話しています」

― キャストの決め手を教えて下さい。

畠中「非現実的な世界を描いた物語ですので、それに説得性を持たせることが出来るキャストは誰なのかを考えました。主人公は何かしらの理由で心中をする男女の設定ですので、小松菜奈さんと松田龍平さんの持つ神秘的な空気感がこの作品の世界観に必要だと思いました。小松さんの個性が光る透明感のある美しさに、松田さんの独特な佇まい。ただ二人が並んで立つだけでもそこに何かが生まれるのではないかと。このお二人以外は考えられませんでした。年配の清掃員キイ役は、大竹しのぶさんの存在感を持ってすれば、この不思議な話でも観客は違和感なく受け入れてくれると思いました。劇中後半の長セリフで演じたシーンは圧巻です。
内田也哉子さんと森山開次さんは、前作に続き出演して頂きました。
田中泯さん、森山開次さん、石橋静河さん、片岡千之助さんという踊れる人を起用したのは、今回のプロットの時系列が入り組んでいて、言葉では説明できない要素が多く、演者の身体性に頼りたいということから。千之助さんは本業が歌舞伎役者で、舞台を映画撮影のために休むのは難しいだろうと思いながらのオファーでしたが、御本人が祖父の片岡仁左衛門さんに談判され、ご出演が叶いました。
もうひとり、重要な登場人物が能楽師の辰巳満次郎さん。佐渡ヶ島は歴史的にも能が盛んで、全国の能舞台の約三分の一が現存しています。富名と薪能などを何度か拝見する中で、自然と重要な登場人物としての能役者の存在が浮かびました。ご本人とやりとりを重ね、能面は江戸初期の逸品の泣増(なきぞう)をお願いし、古典的な能の組み合わせに捉われることなく自由に表現して頂きました」

― 富名監督とは公私ともにパートナーですが、作家としての強みはなんだととらえていますか?

畠中「これしかないという画(え)を持ってくるところです。画を切り取る力には感心します。撮影現場で予想外の要素が生じても、このシーンはこう撮るという決め手を掴むのが早い。どんな状況にも順応する柔軟な一面を持っていることが、富名の強みなのかもしれません。また、プロデューサーとしてはもっと大きな予算で撮らせたいですね」

構成:金原由佳

TRAILER予告編